藤野征一郎 制作について

藤野征一郎さんが金沢美術工芸大学の工芸デザイン科に入ったとき、初めから漆をしようという思いがあったわけではなかったという。ただ、手を動かせる仕事に魅力を感じていたので工芸を選択した。しかし、焼き物なら土しか触らない、金属なら金属しか触らない、他のことができないということには抵抗を感じていた。
「とは言っても「漆の仕事」というイメージには興味は持ってなかったんですよ。その頃は何も知らなくて。でも大学で先生方や先輩方の仕事を見ていく中で、いわゆる伝統的な仕事以外にもいろんなことができそうだなと思ったんですよね。いろんな素材を漆に貼り付けたりなんかしていくわけですよね。そういういろんな素材をミックスして形にできることを、しかもわかりやすい形で行っているわけですよ。切ったり貼ったり削ったりというか。面白そうだなって。例えば陶芸とかガラスは単一の素材を追及していく分野ではあるけれど、それでも今となっては結構面白さも解るように思うんですけれども、直接人の手で触れないところで物事が出来上がっていく面がありますよね。素材に直接触れることができないとか焼いてみないと結果が出ないとかっていうことよりは、自分のやったことがそのまま結果になるのが漆の仕事のイメージとしてあって。そういうほうが自分に合っているだろうという感じですね。」
とは言え、実際に漆の基本技術を学んでいくことは大変でしたけどね、と藤野さんは笑う。

ミックス、というのは素材だけではない。藤野さんの仕事は、伝統技法とオリジナル技法のミックスでもある。伝統的な技法が伝わってきているのは、作ったものを丈夫に長く使えるようにするための方法だからだ。藤野さんは、素材の強さも漆の魅力だと考える。また、漆芸は自分の住んでいる国周辺、近隣の地域で発展した文化でもある。だから、ただこうしたいからと感覚的に使って中途半端なところで終わらせてしまうのではなく、正しく使いたいという思いがある。しかし、ただ正しく工程をこなしていくことへの抵抗もある。
「いかにそれぞれの工程を、ちょっとやり方を見直すことで、なんかちょっとこう自分のやってみたい表情というか、そういうものが出せないもんかなっていうことは、常々考えてるんですけども、工程が例えば三十あるとしたら、その間で何かしら自分のアレンジを入れる。最後の最後でというよりは最初からどこかにちょっとスパイス的に入れていきたいなっていう思いがあって、それがフィニッシュの時にやっと現れるみたいな…、なかなか実現が難しいんですけど、実験でもないんですけどそういう部分もあって、常に工程の中で意外性を感じることができるんですよね。それによって作品が面白くなっていくんじゃないかなって。」

最初にアレンジを入れると、その後の工程の中で、予想通りのことと、予想外のことが出てくる。それによって次の工程を考え、足す。最初から出来上がっている完成予想図に向かって忠実に組み立てていくようなやり方ではない。工芸でありながら、絵を描いていくように、作品を仕上げていく。
「まあたぶん遊びなんですよね、感覚的に。思ったようにやりたいことと、そうじゃないことがすごく交錯して。予想外の経験をいっぱいすれば、予想ができるようにもなるし、それによって素材をコントロールできていくということもあるし、自分でもここはもう一回やれと言われてもたぶんできひんとかあるんですよ。そういう経験があれば、次またチャレンジしようというモチベーションになるし。とにかく鍛錬していく中で、次のところにぽんと行けるような…、そういうところに作る楽しさを求めていますね。」

漆というのはこういうもの、という固定イメージを持つ人も少なくない。藤野さんは伝統、オリジナル、抽象、わかりやすさ、斬新さという、一見互いに相反するような要素の間を行ったり来たりしながら、既存のイメージを超えるものを作り出す。そして「こういうものも漆によって生まれてくるんだ、ということを知ってもらえたら、」と言う。
「漆らしいようで漆らしくなかったりもしますけど、でも根っこにあるものはやはりこう非常に伝統的な美意識だったりとか、こういう言い方は仰々しいかもしれないですけど、自分たちの国の中で進化してきた文化の重要な一部だったりとか、全然漆のこと知らない人でも実は感覚としてすでに持っているものなんかもたぶんあるんですよね。それを常日頃考えているわけではなくても、大事にしていきたいですよね。その感覚は素材なり技術なりによって支えられてきているので、それを守りつつ、新しい事にもチャレンジしていく、っていうふうに思っています。」

文章制作:ギャラリートネリコ

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